僕は君を連れてゆく
第12章 デリバリー攻略book
いつもの俺なら、絶対に断るのに押されまくって
ついてきてしまった。
向こうはバイクをわざわざひきながら隣に並んで、一緒に歩いてくれた。
時々、肩がぶつかって…
「あっ、ごめん!」
「ううん。」
なんて…
部長たちが並んで外回りに行く、二人で帰る姿を
いつも羨ましいと思っていた。
あなたとは、夜に俺ん家で会うかあなたの家か、ホテルか…
そればかりだった。
「名前、二宮、なんていうの?」
「和也。」
「俺は相葉雅紀。愛来軒のデリバリー担当です!」
「そうなんだ…」
「いつも、ラーメンと餃子なの?うちの中華はね、他にもオススメいっぱいあるからさ!食べてほしい!!って…作るのは俺じゃないけど…」
ニコっと笑う。
目尻のシワ、鼻にかかる声。
ダメだ…
同じ想いはもう、したくない…
「かずは会社員さんなの?」
「かず?」
「かずなりだよね?だから、かず!いいよね?」
なんだか、すっかりデリバリーの彼のペースになっている。
この数時間、自分のペースに持ち込めない。
でも…
そうだったのかもしれない。
俺はあなたに合わせていたから。
嫌われたくなくて、帰ってきてほしくて、次の約束がほしくて。
「何、考えてるの?」
「え?」
「悲しいことや辛いことはさ、たくさん食べてお腹がいっぱいになって寝たら忘れられるよ。」
って、それは俺だけかな~って。
「何がオススメなんだよ?」
「そうだなぁ、レバニラ定食は?あとはね、タンメンもオススメだよ!」
食べ物の好き嫌いで盛り上がって…
30分ほどゆっくり歩いて“愛来軒”についた。
「戻りましたぁー!親父さん、俺、間違えて持っていっちゃって…すいません!」
椅子を指差して厨房に入っていった。
ここに座れってことだよな…
店内はほとんどの座席がうまっていた。
そして、デリバリーの彼にみんなが話しかける。
「また、間違えたの?」
「元気な声がしないと思ったら出前にでてたのね。」
その全ての声に爽やかに笑顔で答える。
愛されてる。
この店に来て数分、それが、よくわかった。