僕は君を連れてゆく
第17章 共有
いつもと同じ駅で降りる。
いい匂いのするパン屋からは今日も本当にいい匂いがする。
おすすめはクロワッサンだって。
階段を降りたところにある、たこ焼き屋はつぶれてしまってコンビニになってしまった。
食べてみたかったな。
脇道を入ると魚屋の前に看板猫がいる。
「お腹すいたのか?」
喉をゴロゴロ鳴らして甘えてくる。
グレーの毛に太陽の光が当たってキラキラと光る。
「綺麗だな。お前は。」
相変わらず、ギィーと音のするドアを開けて店内に入った。
「いらっしゃい。」
今日も柔らかい声で俺を迎え入れてくれた。
よく見ると、大野先輩に似てる。
鼻とか?
目とか?
口元とか?
漫画を選ぶ。
サラリーマン同士のはもう、読み終わった。
同棲して二人で料理するシーンで終わった。
次は高校生同士の漫画にしよう。
俺はあの日から、大野先輩にはまってしまった。
違う。
きっと、初めて大野先輩を見たときから。
「これにしよ…」
先輩に知られた俺の秘密。
男を好きになる俺。
そんな俺の趣味。
「今日はどのホモ漫画にするんだ?」
俺が店にくる日、大野先輩も店に来てくれる。
「ホモ漫画じゃなくて、純愛漫画です。」
俺が手にした漫画を取り上げた。
「なに、するんですかっ!」
「学ランだ。先輩と後輩だって…」
ペラペラと漫画をめくりながら俺をチラチラと見る。
「コレが俺。こっちが先輩。」
漫画の中の先輩と後輩がキスしている。
後輩が先輩の後頭部に手を回して。
俺はそれを指差して言った。
「逆だろ?」
俺を引き寄せ先輩が後頭部に手を回した。
「えっ!ま、まっ…」
「キスしたいだろ?」
近づく先輩の顔。
あぁ、なんて綺麗な顔なんだ。
「目、瞑れよ…」
俺と先輩の秘密。
これからも増えてく。
二人だけの秘密。
【End】