
僕は君を連れてゆく
第17章 共有
緊張で声が出ないし、体も動かない。
「テニス部なんだよね?モテるでしょ?」
定期入れを近くの机の上に置いた。
手を伸ばせば届くのに、体が動かない。
「あいつもさ、お前のこと綺麗だって…っていうかさ、俺といるのにお前の話したりすんだよ…」
グラウンドから声はもう聞こえない。
緩くてぬるい風が吹いている。
怪しく笑う顔…ではなく、沈む夕日のように
切なく苦しい顔をしている。
「キスしたいって言ったら、気持ち悪いってよ。なんで、あんな奴好きだったんだろう…」
こういうとき、昨日借りた漫画では何て言ってたっけ…
ダメだ。
昨日のはサラリーマン同士の話だったわ。
「男、見る目ないんだね…」
やっと、出た言葉はこれ。
最低だな、俺。
「フッ…」
鼻で笑った。
そして、眉毛を下げて俺を見て言った。
「漫画みてぇな恋、してぇな。」
ん、と定期入れを俺に差し出す。
俺はそれを受け取った。
「悪かったな…誰にも言ったりしねぇから…」
また、来てくれよ…
そう言った。
すっかり、暗くなった教室に、俺と先輩の
二人だけ。
突然、ガラっとドアが開いた。
二人で体を震わせ顔を見合わせた。
「おい、もう下校時刻だぞ!帰れよ!」
先生だ。
驚いた。
「帰るか…」
鞄を持った先輩。
「あのさ…読む?」
「…」
「貸すよ。いつか、出来るよ。漫画みたいな恋。」
「ホモ漫画?」
「わりぃかよ…純愛だぜ?」
大野先輩の顔は逆光でよく見えない。
でも、わずかに肩が震えている。
思わず引き寄せ、
抱き締めた。
やっぱり、チビだから、俺の腕の中に収まる体。
「漫画みたいな恋、しようよ。」
