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僕は君を連れてゆく

第18章 涙雨


「親父さん、ビール冷やしちゃっていいですか?」

「おぅ!金曜日だから、いつもより多目にな!」

「はーい!」

レジの横にある冷蔵庫に瓶ビールを並べる。
金曜日は翌日が休日なこともあって、夜は本当に忙しい。
この、冷えたビールもあっという間になくなってしまう。

「雅紀!ちょっと、買い出し行ってきてくれ!」

「はい!」

親父さんから預かったメモとお金をポケットに入れてバイクの鍵をプラプラさせて店の戸を開けた。

見上げると雲がどんよりと空を覆っていて、今にも泣き出しそうだ。

「親父さん!なんか、降りそうです。」

「○#◎◇□♯!!!」

なんか、遠くにいるのかちっとも聞こえないけど、
降りだす前に買い物へ行こうと戸を閉めた。

バイクに跨がり発進させた。

流れる景色を横目に目的の店まではバイクで10分弱。
最初はホールでの下膳。次は注文を聞いて、料理を運んで、レジをやって。
一つずつ、覚えていった。
そして、親父さんからの教えもあって今では買い出し、そして、材料を切るところもまかせてくれるようになった。

俺の家は両親揃って料理人で。
店を構えて二人で洋食屋を開いていた。
俺も当たり前のように高校を卒業してから、調理師を目指して専門学校へはいった。
卒業してからは親の店を継ぐつもりだったのに、父親は「この店は俺の代だけだ。」なんて言い出した。
ボケちまったと思ったが、母親の顔を見たら父親と同じ顔をしていて、それが、二人の気持ちなんだと理解した。「お前はお前で店をやれ!」ということだそうだ。

正直、すげぇ、ムカついた。
継いでやる!って言ってるのになんで?って。
だけど、両親からは店を継いでくれ!とか、店を守ってくれ!なんて言われたことは一度もなくて、専門学校に入りたいと言ったときも何度も確認してきた。

「後悔しないか?」
そんなことするはずないと思っていたから、「するわけないじゃん!」と言った。

だから、俺は自分で自分のやりたい店を、作りたい料理を見つけるまで色んなところで働くことにしたんだ。

両親は気持ちよく送り出してくれた。

その気持ちに答えたい。


「あっ…降ってきた…」

空が泣き出した。

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