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僕は君を連れてゆく

第18章 涙雨


こんな日は、君を思い出す。

今、何してる?
どんな顔してる?
泣いてない?


買い物を終えて店を出たら、雨足は強くなっていた。

「大急ぎで帰らなきゃ。」
バイクに跨がり、買い物袋を足元にしまいこんで、発進させた。

途中、信号待ちにあった。
目の前の横断歩道を傘を持たない人たちが足早に通りすぎる。
雨音と歩行者用信号機のスピーカーからの音楽が寂しく流れる。

「ダメだ。カッパ着なきゃ…」
近くの公園の駐輪場にバイクを止めた。
シートを開けてカッパを取り出して着た。

雨は避けることができるけど、暑いんだよな…

フードまで被ってメットを被ろうとしたら言い争う声がする。

巻き込まれたくない…
でも、困っていたら…

恐る恐る覗くと…

「かず?」

見覚えのある顔だった。

泣いている。



「今さら、なんだよっ!」

「そんな、怖い顔するなよ。な?」

かずは傘をさしている男を見上げ、睨み付けている。
男はそんなことは気にしていないようで傘をかずの方へ傾ける。
雨音できちんと、声が聞こえないけれどかずの顔からは苦しみと悲しみしか俺には伝わってこなかった。

男はスラックスの後ろのポケットからハンカチを出してかずの目元にそっと当てた。

目をギュッとつむり、唇を震わせて握りしめた拳開きそのタオルを引き剥がした。

「俺はお前の2番目になる気はないっ!!!」

雨のなか走り出したかず。
小さくなっていく背中。

「今日の雨はかずの涙だったんだ…。」

かずが走り去った後、男はかずが引き剥がし地面へ投げつけたハンカチを見つめていた。
そして、それを二度、三度と踏みつけた。

「あの、バカめ…」

そう、口が動いたように見えた。





「ずいぶん、遅いから心配してたんだよ?大丈夫かぃ?」

「すいません。思ったより雨が酷くて…」

「ほら、風邪引くよ…飲みな…」

お袋さんは優しく俺にタオルとホットウーロン茶を出してくれた。

「すいません。」

「お前、何やってんだ!こんな時間かけやがって!材料だってびしょ濡れだろっ!バカ野郎!」

「すいません。本当に…」

親父さんに怒られて、お袋さんに心配されて。

それでも、俺の頭のなかはかずで一杯だった。

また、泣いてる君をみつけてしまった。


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