僕は君を連れてゆく
第28章 ハンプ
◇N said
ー 興奮している、眠れてない、指示通らず
カルテにそう書いて、閉じた。
「じゃぁ、常田さん、また来週ね。」
「先生、あたしのお迎えはいつになるんだい?」
「来週、また、僕をお迎えしてね?」
足の踏み場のない部屋。
居間なのか、台所なのか、境がわからないくらい荷物とゴミで溢れている室内。
常田さんは旦那さんが亡くなってから急速に認知症が進み片付けが出来なくなってしまった。
きちんと、食事をしているのか、お風呂に最後に入ったのはいつなのか、もう本人もわかっていない。
俺はこの町、唯一の診療所で医師として働いている。
過疎化した町には小学校も大型スーパーもなくて。
もちろん、バスもはしっていないから平日の午後は診療所まで来れないお年寄りの家を回り、健康状態の確認をしている。
この町は春になれば、桜の花びらを浴びながら歩くことができる。
夏の夕方になれば蛍が飛ぶ。
秋には銀杏の特有の匂いを感じ、
冬は一段と静かに雪が降る。
そんな町だ。
隣町に行くには川にかかる橋を渡るしかなくて。
その橋も雨や風の程度によっては渡るのを諦めなくてはならない。
救急車を呼んでも来るまでに30分以上かかる。
俺は幾度となくヘリコプターが着陸できる土地の確保をして隣町からドクターヘリを飛ばしてもらうことを検討してほしいと訴えているが、お役所言葉の返事しか返ってきたことはない。
山に太陽が隠れてきてる。
そろそろ、辺りは真っ暗になる。
虫の声ももう、聞こえなくなってきた。
俺も冬支度をしなくちゃ。
「帰ろう。」
ー 興奮している、眠れてない、指示通らず
カルテにそう書いて、閉じた。
「じゃぁ、常田さん、また来週ね。」
「先生、あたしのお迎えはいつになるんだい?」
「来週、また、僕をお迎えしてね?」
足の踏み場のない部屋。
居間なのか、台所なのか、境がわからないくらい荷物とゴミで溢れている室内。
常田さんは旦那さんが亡くなってから急速に認知症が進み片付けが出来なくなってしまった。
きちんと、食事をしているのか、お風呂に最後に入ったのはいつなのか、もう本人もわかっていない。
俺はこの町、唯一の診療所で医師として働いている。
過疎化した町には小学校も大型スーパーもなくて。
もちろん、バスもはしっていないから平日の午後は診療所まで来れないお年寄りの家を回り、健康状態の確認をしている。
この町は春になれば、桜の花びらを浴びながら歩くことができる。
夏の夕方になれば蛍が飛ぶ。
秋には銀杏の特有の匂いを感じ、
冬は一段と静かに雪が降る。
そんな町だ。
隣町に行くには川にかかる橋を渡るしかなくて。
その橋も雨や風の程度によっては渡るのを諦めなくてはならない。
救急車を呼んでも来るまでに30分以上かかる。
俺は幾度となくヘリコプターが着陸できる土地の確保をして隣町からドクターヘリを飛ばしてもらうことを検討してほしいと訴えているが、お役所言葉の返事しか返ってきたことはない。
山に太陽が隠れてきてる。
そろそろ、辺りは真っ暗になる。
虫の声ももう、聞こえなくなってきた。
俺も冬支度をしなくちゃ。
「帰ろう。」