僕は君を連れてゆく
第28章 ハンプ
桜の木の葉が落ちてすいぶん寂しくなった。
この町は、元々、俺のじいちゃんが住んでいた。
小さい頃はもっと活気もあって、長期休みの時には家族で帰省して、野山での虫取り、川でのザリガニ釣り、木々になる実を食べてお腹を壊したり…
夏には大きなお神輿がでるお祭りがあって、ねじり鉢巻に法被を着て練り歩くじいちゃんの姿はまだ、頭の隅に残っている。
そんなじいちゃんは俺が中学生になる頃、脳出血であっけなく死んでしまった。
俺らが病院についたときにはすでに死後硬直が始まっているところで、白い浴衣に身を包まれて顔に白い布が当てられていた。
初めて体感した人の死。
独りで寂しく死を迎えたじいちゃん。
それが俺の医者になった理由だ。
誰かに手を握られて涙を流してもらい、死を迎える。
じいちゃんみたいに寂しく死を迎える人がいないように。
見上げた空は雲一つない真っ暗闇。
星がキラッキラッと瞬いている。
「夜はだいぶ、冷えてきたな…」
家について、すぐ電気をつける。
そのまま、洗面所に行き、白衣を洗濯機に突っ込んですぐに回す。
風呂を溜めている間に今日見た、患者さんたちの記録をする。
紐でくくられたカルテを開いて一人ずつ、名前と顔を思い出しながら…
「常田さん…」
俺はこの常田さんのことが気がかりだった。
体の変化、それは体調もそうだけど、心まで沈んでいて今にも折れてしまいそうだからだ。
「また、明日、行かなくちゃな。」
ー 不安がっている、精神的な支え必要
とまで、書いてペンを持つのをやめた。
目を閉じる。
忘れもしない、お前の声が、顔が浮かんでくる。