僕は君を連れてゆく
第35章 空の色
ずっと、そう、呼びたかった。
喉まで来てるのに、声にならなくて…
何度も飲み込んできた名前。
声に出したら、涙が溢れてきた。
「…さと、し…」
ふわりと抱き寄せられて、頭を撫でられる。
「和。和也。」
耳元で俺の名前を呼ぶ。
幸せだ。
「今日はありがと。連れてきてくれて…」
「おうよ!また、来よう。二人で色んなとこ行こう!」
俺の胸のなかを智に見せてやりたい。
幸せ、が、積もりに積もって溢れているんだ。
こんなにも暖かい気持ちにさせてくれる。
「智。」
「なぁに?」
名前を呼ぶだけでこんなにも…
「幸せ…だよ。」
そう、言ったら目をパチクリさせてふんわりと笑う。
***
「朝からそんなに食べるなんて珍しい!」
そう、大野さんは言うけど、昨日の夜、かなりの
運動したでしょうよ!
お腹も空くわ!
「お腹空いてるんだもん…」
ニヤぁと白い歯を見せて、俺も!と。
席から見える青い空と、青い海。
「空と海は繋がってるんだね。」
「ん?」
「太陽からの陽射しで海、キラキラしてるもん。」
降り注ぐ太陽光はいくつもの白い柱になって海へと注いでいる。
その、白い柱は海と空を繋ぐ橋のように見えた。
「本当だ…綺麗だな…」
大野さんの声はやっぱり、優しかった。
***
「智!シャツはきちんと裏返して洗濯機に入れてって言ってるでしょ!」
「えー、いいよ、このまま回しちゃって。」
良くない。
ボタンが他の服に引っ掛かって取れちゃうかもしれないだろ。
「もぉ~」
「和也!タバコどうしたっけ?」
「ソファーの間は見たの?」
和に聞けば何でもわかるからな~と言う。
そうだよ。
智のことは何でもわかる。
智が忘れてしまうなら俺が覚えておけばいい。
智が出来ないなら俺がやればいい。
「コーヒー淹れるな?」
「うん、お願い。」
コーヒーは智にお願いするから。
ーおわりー