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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ


「今日は?」

「遅くなるから先に寝てていいよ。」

「わかった…」

このやり取りをしてもう2年近くなる。

「じゃぁ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい…」

閉まるドア。
それが、俺とお前の間にある壁に見えるようになった。
その壁はどんどん分厚くなっていく。

今日も冷たいベットに一人で入る。



◆◆◆


「先輩は子供欲しくないんですか?」

「え?何?急に…」

不動産を扱う会社に勤めて約5年。
俺は結婚してもうすぐ、3年になる。

俺のように結婚して子供を作らないで夫婦共働きの家庭なんて吐くほどいる。

「だって、先輩って結婚して3年くらいですよね?仕事、こんなに抱えて…パートナーさん、何も言わないんですか?」

「この仕事、俺、好きだからね…」

「理解のある方なんですね。」

理解のある方、とはどんな方、なんだろう。

仕事は好きだ。
やりがいも感じているし。

結婚した当初は産休とか、育児休暇とかどうなっているのか調べたものだ。

まぁ、そんなもの必要なくなったけど。



極論を言えば、別に子供が欲しいわけじゃない。


俺はセックスがしたい。


潤に抱かれたいんだ。


こんなことで悩んでるなんて誰も思わないんだろうな。


「二宮さん、お客様、見えましたよ!」

「はーい!」


今日も新しい人生を迎える人たちへ新しい物件を
おすすめする。


名札に[幸せのお手伝いをします]と会社の謳い文句を掲げて。


パートナーとのセックスレスで悩む俺が。

他人の幸せのお手伝いをする。

笑える。

「子供が生まれたら、一人部屋は必要ですよね?」

共働きの夫婦なんて吐くほどいる。

その中で俺のように悩んでる人たちってどれくらいいるんだろうか。

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