僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
「ただいま…」
真っ暗な部屋に帰ってきた。
ご飯作るのもめんどくさいや。
テレビをつけてソファーにスーツのままゴロンと寝っ転がった。
この俳優もこの間、子供が誕生したってニュースでやってた。
この芸人も結婚したって。
みんなセックスしてるんだよな…
「…いいなぁ…」
俺は慌てて、口を押さえた。
まさか、こんな言葉を口にするなんて。
「どんだけ、ヤりてぇんだ、俺は…」
携帯が鳴る。
「もしもし?潤?」
『俺。悪いんだけど、迎えに来れない?』
ちょっと、飲み過ぎた、と。
少し、口調が柔らかくて。
こんな声、久しぶりに聞く…
「どこに行けばいいの?」
俺は車を飛ばした。
こんな風に甘えてくることなんてほとんど、ないんだ。
その店は潤の会社のそばの大衆居酒屋。
昔はよく、ここで潤の仕事が終わるのを待っていた。
それで、待ちくたびれて。
寝ちゃって…
俺を抱えて帰ってくれたんだよな。
店の暖簾をくぐると粋な声が俺を迎えてくれた。
案内された席。
「悪いな…」
少し顔を赤くした潤がそこにいた。
「いいよ。」
潤の上司に挨拶に行こうとしたら、腕を掴まれた。
「帰るぞ。」
「でも…いいの?」
「いいよ。楽しく飲んでんだから…」
気が引けたけど…
掴まれた腕が熱い…
ややおぼつかない足取りの潤に肩を貸す。
車の助手席に乗せた。
「松本~!!」
店から俺らを追ってきた人がいた。
「忘れてる!」
会社の名前が入った封筒を手にしていた。