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僕は君を連れてゆく

第37章 背中合わせ


「朝早くに申し訳ない…」

頭を下げた櫻井。

洗いざらしの髪。伸びた髭。
あまり、眠れていないように見える。

「…上がれば?」

すまない、と靴を脱いでそれを揃えた。

ソファーに座るように促した。
浅く腰を下ろした櫻井はやや緊張しているみたいで。

さっき、淹れたコーヒーを出した。

「…サンキュ。」
小さい声で呟いた。

ふぅ、と櫻井に気づかれないように息を吐き出した。

「で…なに?何しに来たの?」

自分でも驚くくらい低い声だった。

ビクッと肩を震わせた櫻井を見て、怒りがまた
込み上げてきた。

「朝から、何しに来たんだよ。ってかさ、よく来れたよな…。こんだけ、一緒に仕事しておいて…
お前は、俺を裏切ったんだ。

昨日、アイツが言ったよ。シンガポールに朝一で連絡しなきゃならないんじゃないかって。
お前しか知らないことをなんで、アイツが知ってんだよ!
いつからだ?いつからなんだよ?
いつから、アイツと…」

気がついたら、櫻井の胸ぐらを掴み立ち上がらせていた。

櫻井は俺の目をずっと、見ていた。

悪いのは和也と櫻井なのに。

なんで、こんなに真っ直ぐに俺を見るんだよ。

「ど、どうなんだよ?え゛ぇ!!なんか、言えよっ!それともあれか?お宅らが上手くいってないから適当に引っ掛けたのか?アイツもずいぶん、安く見られたもんだな…」

「…フッ…」

櫻井が鼻で笑った。

胸ぐらを掴んでいた俺の腕に引き離しソファーの上に突き飛ばされた。

「って…なぁに、すんだよ!痛ぇだろ!」

胸元を整え、乱れた髪を直す櫻井。

そして、やっぱり、俺を真っ直ぐ見た。



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