
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
「俺たちはもうダメだから…お前は、まだ、やり直せる。」
雅紀さんとの離婚が成立したそうだ。
「俺たちはただの幼なじみに戻ることにした。
お前たちは?お前にとって大切なものはなに?」
俺たちは…
俺にとって、大切なもの。
櫻井は雅紀さんと別れて、新しい部屋を借りるために和也の営業所を訪ねた。
顔見知りなこともあって、意気投合して飲んだり、食事したり。
「綺麗だなと、思ったのは本当だ。それがお前のパートナーだって、分かっていたけど…俺が、慰めてやろうかと思ったよ…」
「なんで?」
「すげぇ、震えるんだよ。そんなの見たら…手なんて出せないよ…」
可哀想、と思ってる自分もいたと。
「可哀想と思って関係なんて持ったって…惨めなだけだろ…」
あんなに、ぶっ殺してやりたいと思っていたはずなのに。
顔も見たくなくて裏切られたと思っていたのに。
なんで、こんな風に静かに櫻井の話を聞いてんだ、俺は…
和也はファミレスにいるそうだ。
和也から昨日の夜中、離婚が決まったことを報告したら一人でいると話してきたらしい。
「手出せなかったって…そんな、雰囲気になったってことかよ?」
面倒くさいとか、適当に返事しておけばいいや。
なんて思ってるくせに浮気されたと思った途端、
こんなに腹が立つなんて。
「…フフっ…」
櫻井は鼻で笑った。
「なんだ、てめぇー、マジだったら、一発ぶん殴らせろよー」
二人で笑って。
「なぁ、松本…」
迎えに行かなくちゃ。
待ってろ、和也。
