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僕は君を連れてゆく

第49章 MJ倶ラブ 2nd.

年が明けた。

平成最後の大晦日

平成最後の紅白歌合戦

平成最後の…

何回もこのフレーズを聞いたな。

まぁ、俺にはどれも関係ないけどさ。

更衣室で制服から私服に着替える。

「はぁーい、お疲れ」

俺は役者の端くれで。

それだけでは食ってけなくて。

毎日、食べるのも困ってる状態で。

日雇いのバイトでなんとか、食いつないでる。

「はい、今日の分」

茶封筒を渡される。

「今日はマジでお疲れ!みんのおかげでなんとか年が明けた」

毎年、ニュースになる年越しのカウントダウンに来る若者で溢れかえる渋谷のスクランブル交差点。

そこで警備のバイトだった。

アホみたいにはしゃぐ若者を横目に寒さに耐えてた。

イベントは渋谷区が主催し、今年で3回目らしい。
大型ビジョンにカウントダウンの映像が流される。

寒いのにわざわざやってきて…
酒を飲んだんだろう、千鳥足で肩を組み歩いてる。

大バカなやつは電信柱に登ってみたり…

本当に…呆れる。

車をひっくり返されたらたまらないから、それは駐車するのをやめてもらったけど。

「飯行こうぜ~」

バイトリーダーがみんなに声をかけてる。

「いや、俺、台詞覚えないとマズイんで…」

こう断るのも慣れたもんで。

みんなが影でなんて言ってるのかも知ってる。

“売れてねぇくせに”

“何が役者だ”





「うるせー、バーカ」
小さく呟いてそれは空に消えていった。

見上げた空に浮かぶ光る星。

繋ぐと一つの星座となって、絵画のように俺らを見下ろしている。

夜にならないと出会うことの出来ない絵画だ。

「寒っ」

俺だって。

俺だって。







星が降ってきそうな澄んだ夜空に涙を堪える。

下を向いて歯を食いしばって。

頭をあげてもう一度、夜空を見たら

「吸い込まれそう」

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