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僕は君を連れてゆく

第50章 こんなにも

「あれ?どしたの?」

潤が帰ってきて俺の部屋を見るなり聞いてきた。

気がついたら結構な時間がたっていて俺がやらなきゃならない家事を一通り終えたら収納ケースをしまう時間がなくて。

「ちょっと、掃除しようかと思って」

「ふーん、しまおうか?」

「いや、俺がやるから」

「そう。…飯にしよ?」

今日は寒いから鍋焼きうどんだよ、と言いながら土鍋を俺の前に置いた。

「こんな土鍋あったっけ?」

「お一人様用の結構安く売ってるから買ったんだよ」

蓋を開けたらたくさんの湯気がでて卵が美味しそうに艶々してる。

うどんをすすりながら横目で潤を見る。

「なに?」

「え?」

「言いたいことあるなら言ってよ」

「別にないよ、なんで?」

「まぁいいけど。今日の分は書けたの?」


深くは踏み込んでこなくて、仕事の話へ切り替わった。

順番に風呂に入り、潤は明日の弁当の準備をしていた。

「じゃぁ、潤、おやすみ」

「あ、明日ちょっと遅くなるからさ、飯、」

「適当に食べるよ」

「悪いな」

自室のベッドに横になった。

潤は月に1、2度帰り時間が遅くなる。

明け方近い日もあれば日付の変わる前になることあったりとバラバラだけど。

「この家には呼べないよな」


俺に気を使ってくれてるんだよなぁ。




閉まりきってないクローゼットから見える、段ボール。

一度、手にしたら懐かしくて。

自分が書いた作品だけど読み返してしまっていた。

原稿用紙を捲る度に香る匂い。

今はパソコンが主流となったけど当時は買えなくて。

原稿用紙に書いたんだ。

作家さんみたい!と笑って、書いてる俺の邪魔をしないようにと隣室に行ったと思ったらドアを少しだけ開けて覗いてたり。

見つかると真っ赤な顔をして、だって書いてる顔がカッコいいんだもん、って。


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