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僕は君を連れてゆく

第50章 こんなにも

潤の作った弁当を食べる。

今日の中身は人参といんげんの肉巻きに卵焼き、ブロッコリーのおかか和えだった。
ご飯にはふりかけがかかっていた。

そして、それだけは足りないかもしれないとラップに包まれたバターロールが2つ。

レタスとハムが挟まったのと、ブルーベリージャムが挟まったもの。

バターロール。

おれはこのパンが苦手なんだ。

でも、腹が減るから食べてやるけど…

昼まででだいたい今日の原稿は書き終えた。

おれはいくつかの雑誌、新聞にコラムを連載してる。
元々、編集の仕事をしたくて文字の世界へ入ったものの、この性別のせいと今まで努力してきた文章力を買われ書く方にまわったのだ。

弁当を食べ終えクローゼットを開けた。

一番上に収まっている収納ケースを引っ張りだして、さらにその奥。

普段は潤のセンスによってまとめられてるこの家のインテリアには似つかわしくない段ボールが一つ。

それを取り出した。

中身はたいしたものは入ってない。

ガラクタとも言えるし、よく言えば思い出とも言える。
ガッチリ、ガムテープでとめられていた箱に手をかける。
この箱を開けるのは一年半、いやもっとたつかもしれない。

べりべりはがして中を確認する。

一番下に大きな封筒。

この中身は原稿用紙だ。

昔、俺が書いた小説だ。

恋愛小説。

一番上の俺の名前だけ書かれているのを捲る。

懐かしい紙の匂いがして、俺は大きく息を鼻から吸った。
すると、途端に忘れられない匂いがした。

「…」

この小説は智と一緒にいた頃に書いたもので。

一番目の読者は智だった。

出版社に持っていくか悩んでいた俺を毎日、励まし背中を押し続けてくれた。

何度も、何度も読んでいたから智の匂いがうつったんだ。


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