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僕は君を連れてゆく

第50章 こんなにも

「最近、どう?」

「別に、なにも」

必ず、聞いてくる。

「で、何をしようとしてんの?」

「俺はあまりお勧めしないけど、編集長は櫻井先生のインタビューを希望してる」

「インタビュー?」

俺は今まで顔を出したことはない。

顔を出すと先入観を持たれるような気がするから
嫌なんだ。

「うちの雑誌も創刊20年なんだ。で、それに合わせてイケメン櫻井先生を表紙にって」

「なんだ、それ」

「だよな…俺も表紙にする必要はないって言った」

あの編集長は何を考えてるのか。

「断るよ…悪いけど」

「うん、そう言うと思った」

岡田くんは笑って、もう一杯飲む?と聞いてオーダーしてくれた。

グビグビと飲み干してつまみのホタテのアヒージョを口に入れる。

「うまっ」

「海鮮のメニューが豊富なんだよ、ここ。好きだろ?」

今も、感じる視線。

岡田くんは俺を好いてくれてる。

「一番は刺身だけどね」

「刺身もあるよ?食べる?」

「うん、そうしようか…」

「あれ?翔くん!」

「……」

「翔くん、来てくれてたんだぁ」

智が俺を見て、笑う。

この前会ったときと同じようにスーツを着てる。

俺の好きな顔で、声で俺の名前を呼ぶ。

「どした?櫻井?」

「あっ、いえ、別に」

隣に岡田くんがいることをすっかり忘れて
頭のなかは智のことだけ。

「俺、ここのプロデュースしてる大野って言います


と、岡田くんに向けて名刺を取り出した。

「この人は、俺の担当さんで今日はたまたま仕事で」

「そんなに早口で仕事だけの関係なんて言わなくても良くないか?」

岡田くんはゲラゲラ笑って名刺を取り出して俺の目の前で二人で名刺交換をした。

俺は目の前にいる智にやっぱり釘付けだった。

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