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僕は君を連れてゆく

第60章 名前のない僕ら―隠した恋心編―

家に着くと玄関には灯りがついている。

みんな、帰ってきてるのかも。

でも、誰にも会いたくないから。

部屋に直行しようと思ってた。

「……」

玄関には見慣れない靴が。

兄さんのじゃない。

この靴…

カチャとゆっくりリビングのドアが開いて顔を見せたのは兄さんじゃなくて。

「弟くん!お帰り」

俺は睨んだ。

なんで、お前がここにいるんだ。って顔をして。

「ニノ、弟くん帰ってきたから俺は帰るね」

その横顔が優しく兄さんを見てるのが分かる。

俺からは見えない兄さんの顔はどんな顔なんだろう。

乱暴に靴を脱いで相葉センパイを押し退けリビングに入る。

「なんだよ、乱暴だな!もう!じゃあね、ニノ!」

小さく顔の横で相葉センパイに向けて手を振る。

なんで、そんな顔してんだよ。

なんで、相葉センパイがここにいるんだよ。

リビングにあるソファーのクッションを相葉センパイも抱えてたのか。

テーブルにはグラスと食べかけのポテチ。

俺の好きなやつ。

相葉センパイと食べてたの?

俺は、やっぱり、兄さんのそばにいられないの?

相葉センパイがいいの?

だから、ここから出ていくの?

「母さんも父さんも遅いって。ご飯準備するから風呂入ってきたら?」

キッチンに向かおうしたその手首を掴んだ。

このソファーで、兄さんを犯した。

あのときの兄さん…

「なんだよっ」

怯えているのがわかる。

でも、止められないんだよ。

「分かるだろ?」

ソファーに体を沈める。

両手首をまとめて頭の上に押さえつけると顔を真っ赤にして足をバタつかせる。

「兄さんっ…」

好きなんだ。

兄さんが、好きなんだ。

「お前…」

こんなことしなきゃ、目も合わしてくれない兄さん。

「うっ…う…」

俺は兄さんに跨がったまま滲む涙を抑えることが出来なかった。



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