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僕は君を連れてゆく

第60章 名前のない僕ら―隠した恋心編―

「ニノは誰なの?」

ベットとテレビの間で小さくなってるニノを見下ろす。

この間見えた、首筋の赤い痣はなくなっていて。

それをつけたのが、弟くんだなんて。

分かってる。

「そんなの、いな「潤、だろ?」」

「…へ?」

ニノの言葉を遮って、弟くんの名前を叫んだ。

「ニノとどんだけ一緒にいると思ってんの?見てりゃわかんだよ」

ニノは口を結んだまま視線を泳がせている。

「ずっと、ニノを見てたのに。まさか、弟だなんて」

ふつふつと沸いてくる怒りの感情。

ニノの正面にしゃがみ両肩を掴んだ。

「俺を見ろよっ」

「っつ…」

途端にガタガタと震える体。

俺から離れようとバッと立ち上がる。

俺に背を向けたニノを背中から抱き締めた。

「逃げんなよっ」

「やだ!雅紀とはこんなのやだ!」

「じゃぁ、弟くんとはこんなことするの?」

耳たぶにそっと唇を寄せた。

「あっ!」

吐息を漏らす反応に、経験してると示してる。

「弟くんと、してんでしょ?アイツ、乱暴にしてくんじゃないの?」

耳から首筋に唇を移動させて。

「この前、ここについてたよ。キスマーク」

と、チュっとキスをした。

「やめて!」

俺から抜け出したニノは鞄を持って部屋から出ようとした。

「なんで?」

ニノより先にドアノブを握り、ニノの背中をドアに追い詰めた。

「何が?」

瞳には薄く、水分の膜が張っていて。

「なんで、そんなに悲しそうなんだよっ」

ニノが弟くんを好きな事に最初から気づいてた。

兄妹というしがらみは俺には想像出来ないくらいの苦しみがあるんだろう。

だけど。

「俺は、お前に幸せになって欲しい…」

ニノの瞳から零れた涙。

そんなに辛いなら、俺が…
俺にしたら?


「潤っ…」

ニノは弟くんの名前を泣きながら呼んだ。

俺にすがるように抱きついて泣いた。

俺にしたら?
この言葉はやっぱり、言えなかった。

【つづく】

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