僕は君を連れてゆく
第65章 ハートビート
PM.10:33
「今日もご馳走さまでした」
「結構、お腹一杯になったね」
「はい。じゃぁ、また」
「おぅ!着いたら連絡して」
駅に着いて、まっすぐ改札に入っていく。
そして、一度、振り返り俺に手を振る。
顔の横で小さく手を振る。
それに、俺はバカみたいに大きく手を振り返す。
そうすると、君が、俺を指差して笑う。
そして、ペコリって頭を下げてホームへ上がる階段を少し足早にのぼっていくんだ。
そこまで見届けてから、俺は駅を背にして歩きだす。
「はぁ…」
また、言えなかった。
“もう少し、一緒にいたい”
こうやって、二人で会うのはもう四回目。
終電に間に合うように、いつも時間を逆算して。
待ち合わせの時間を考えて。
映画にするか、それとも少し美術館とかアートに触れるか、とか。
二人で体を動かすのだっていい。
なんて…
そんなの嘘。
いや、100%嘘じゃない。
50?いや30%くらいかな。
気がつくと見てしまう。
唇を。
指先を。
そのシャツの中を…
ダメだ…
もう、こんなことばかり考えてる…
潤は?
潤はどう思ってるんだろう?
俺とはそんな先のことまで望んでないのかな?
それとも…
いつまでも、誘ってこない俺に愛想つかしてるんじゃ。
意気地無しって…
だけど。
告白してくれて、付き合い始めたわけだけど…
就活が始まった潤はイキイキとしてて。
これからまだまだ未来がある。
出会いだって、あるわけだ。
「はぁ…」
こういうところが意気地無しって思われてるのかな。
いいのだろうか。
このまま俺と付き合っていて。
なぁ、潤。
俺でいいの?