僕は君を連れてゆく
第65章 ハートビート
待ち合わせの5分前に着くように家を出てるはずなのに、
俺の恋人はもう着いてる。
俺を見つけて、大きく手を振ってくれる。
携帯をいじってた顔が俺を見つけた途端に目尻にたくさんシワを作ってくれて。
俺だけに向けられる笑顔がすごく嬉しいのに。
こんな素敵な人が俺の恋人なんて…
俺、幸せすぎるよ…
今日だって…
「ごめん!」
「いや、ピッタリだよ」
走らなくていいのにって頭を撫でられた。
撫でられた俺。
きっと、頭に花咲いちゃってる。
「どこ行く?」
「あのさ、仕事で使うファイルみたいんだけど…付き合ってもらってもいい?」
「もちろん!」
いつも、俺の行きたいところ、食べたいものを聞いてくれて。
それは、とっても嬉しい。
でも、たまには、櫻井さんのワガママだって聞きたい。
「駅ビルの本屋さん、文具、結構揃ってるよ?」
「そうなの?じゃぁ、そこ行ってみるか?」
並んで歩くときも俺には歩道側を歩かせないし。
ドアだって開けてくれる。
「この前、大野さんがさ…」
会社での話も色々話してくる。
大野さん、相葉さんって名前がたくさん出てくる。
「大野さんって同僚だっけ?」
「いや、1コ上の先輩」
「相葉さんが同僚か?」
「そうそう。歳は1つ下なんだけどね」
俺の前での櫻井さんと、会社での櫻井さんって違うのかな?
違うとしたら、どんな風に違うんだろう?
俺は年下だし、まだ学生だから…
色々経験してるであろう櫻井さんは俺のこと、
つまらないって思ってないかな?
だからなの?
だから、いつも…
今日こそ言わなくちゃ。
“帰りたくない”って。