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僕は君を連れてゆく

第70章 向日葵のやくそく /MS

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小さい胸に残る大きな傷。
ケロイド化したものの成長とともにその傷は疼いていくだろう。

「カッコいいでしょ?」

「え?」

「まーくんが俺のここ見て、すげぇ!って言ったんだ!カッコいいって!!!」

「そっか!頑張ったもんね!!」

「うんっ!!」

「暑いって言って気がついたら裸になって遊んでたんです。そうしたら、近所のお友達が和也の胸の傷を見てカッコいい!って言って…」

心臓の手術をした結果大きな術痕が胸に残った。
男の子で良かった、と言えるほど小さくないその傷を病気と闘った証、として成長したら話が出来るようになればいいな、と思っていたが。

「子供の言葉のパワーはすごいな」

「先生?次の夏はプールに入ってもいい?」

「そうだね、この調子でいれば入れるかもしれないね」

やったー、と万歳してお母さんを見上げる。
こうやって、彼らのやりたいことが一つずつでも叶うように、治療をしてきた。



ナース「和也くん、大きくなりましたね~」

「そうだね」

診察が終わり会計に向かう親子の背中を眺める。

「あまり、無理しないでね」

ナース「はい。今日は午前中だけなんで大丈夫です」

彼女のお腹には新しい命が宿っている。
お腹を擦りながら、診察にくる子供たちの可愛さにこれから生まれてくる我が子を重ねているんだろう。

ナース「先生も。しっかりお昼食べてくださいね」

「分かってるよ」

この病院で小児科医として働いて5年がたった。
大学に戻るか、ここに残るか、はたまた別の。

彼は、これから先の未来をどう考えているのだろうか。

聞きたいのに、聞けない。

聞いたところでどうなる。

先の未来なんてわからないのに。

ナース「じゃぁ、先生、おつかれさまでした」

「あっ、うん!おつかれさま」

幸せそうだなぁ、と見てて思う。

俺も…
昔は、俺も結婚して子供が出来て…
そんな未来がくると思っていた。

だけど…

そんな未来はこない。

でも…

幸せになりたい。

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