僕は君を連れてゆく
第74章 今夜、君を
「明日、新しい子、来るから」
「はぁ…」
部長が俺の席まできてわざわざ、話す。
そんなことを俺に言って、どうするつもりなんだ?
「面倒みてやって」
「え?」
「大野に指導係任せるわ」
と、俺のさらに奥にいる櫻井に声をかける。
「いいと思いますよ」
いいと思うって、なんでそんな勝手なことが言えるんだ?
そうして、入ってきたのが相葉だった。
俺より、頭一つくらい高い上背に、小さい頭。
そして、明るい髪色。
少し毛先を遊ばせていてよく似合っている。
「相葉雅紀です。よろしくお願いします」
と、90度に体を折り曲げて挨拶をした。
パチパチと拍手をされると白い歯を見せて笑った。
かなりの、せっかちらしく…
電話をとるまえに、「はい!相葉!」と言う。
名刺交換の最後に、握手をすることを覚えたそうで…
「今日はオレ流、やってみます!」
と言うので黙ってみると。
「よろしくお願いします」
と、先方が手を差し出したら、その手を握り自分に引き寄せた。
「末永くよろしくお願いします」
と、そのまま引き寄せ抱き締めたのだ。
「キャー!?」
「え?!あっ!ごめんなさい!」
俺は頭を抱えた。
「相手は女性だぞ?何、抱きついてんだよ」
「抱きつくんじゃなくて、ハグです!ハグ!」
「握手でいいんだよ、何かオレ流だ」
「しません?ハグ?」
「しないっ!」
ブッ~っと唇を尖らせて俺のあとをついてくる。
先方は悲鳴をあげたものの、イケメンな若者に抱きしめられて、喜んでいたから良かったが…
これがもっと、若い女性だったら…
セクハラで文句言われるぞ!全く…!
「先輩?」
「なんだ?」
「良かった、話してくれたー」
「はぁ?」
「無視されちゃうかな?って思って…お腹空きません?」
腕時計を見ると13時を過ぎていた。
「何食うか?」
「俺かおごりますよ!迷惑かけたんでっ!」
・・・・・
「どこにいるんだ!財布ないくせに、奢るとか言う奴は!」
「いやー、あれ?なんでないんだ?」
会計になって鞄のなかをこする相葉。
ズボンのポケット、ジャケットの胸ポケット。
相葉は固まった。
結局、俺が支払った。
「ご馳走さまです!」
「お前とは二度と、飯行かねぇぞ!!」