僕は君を連れてゆく
第74章 今夜、君を
気がついていた。
というか、気づくように接してきていた、というほうが
正しいと思う。
俺は自分の気持ちを言葉にするのがあまり得意じゃない。
甘えに聞こえるだろうが相手から話しかけてもらわないと自分からは話したりなんてほとんどしたことがない。
そんな俺だから、指導係なんてやったことがない。
“先輩”
と、呼ばれるたびにドキドキしてた。
俺にわからないことを聞いてきたらどうしよう、とか。
俺の教え方じゃわからないなんて言われたらどうしよう、とか。
でも、相葉はいつもニコニコしてて。
相手の懐にうまくはいって人間力ってやつがあるんだなぁって。
みんな相葉を好きになっていく。
うちの会社のやつも。
得意先の上司も。
みんな。
そっか。
俺も…か。
そして、今日。
タクシーを降りるときに頭をぶつけた。
相変わらずバカな俺。
そんな俺の頭を庇うようにしてくれる優しいやつ。
年上だから、俺が言わなくちゃ。
後ろをついていくと信号があった。
「先輩、うちに来る意味わかってます?」
びっくりして顔をあげた。
相葉は少し苛立ってるような、眉間にシワを寄せて
そう言った。
わかってるつもりだ。
ただ、少し怖いんだ。
「連れてけよ…」
相葉は少しだけ瞳を揺らして俺の手を握った。