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喫茶くろねこ

第6章 春 ~母と猫と入学式~

朝食を済ますと食器を洗って店を出る。
ニコルスが、どうせ同じ大学なんだし、タクシー代割り勘にして節約したいから、という理由で一緒に行こうと誘ってきたが、母との待ち合わせがあったので申し訳ないけれどそれは断った。駅まで行くと、スーツ姿の母親と合流。
高校の入学式の時はわりと華やかなスーツだったのに、なんだか今日は色合いが地味だ。わりと派手なのが好きな人なのに珍しい。

「母さん…地味だな…」
「大学の入学式なんて、親は後ろのほうでこっそりとわが子の晴れ姿を見て、終わったらささっと帰るんだから、地味でいいのよ」

それから僕たちはタクシーに乗り込み、大学に向かった。

「佑太…ついに大学生なのね…あんな赤ちゃんだったのに…大きくなったわねぇ~」

感慨深げに母親が言う。赤ちゃんって…いったい何年前の話だよ!

普段、全然、そんなことを言わない母なのに、なんだかたまーに回想モードにはいって一人でうるうるするから調子が狂う。こんなことなら、ニコルスについてきてもらったほうが気が紛れてよかったかな、なんて、誘いを断ったことをちょっとだけ後悔する、が、まぁ、たまには親子水入らずの時間もいっか。

ん?親子水入らず…?いや、タクシーの運ちゃんがいるか。

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