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喫茶くろねこ

第8章 先代マスター、ヒロさん

『私たちは、毎日一緒にいた。幸せな日々だった。私は、ヒロさんが大好きだった…。ヒロさんは、とても話好きな人だった。猫である私に、いろんな話を聞かせてくれた』

…いろんな…

『そう、いろんな…。ただ、当時、まだ人の言葉がわからなかった私には、ヒロさんの話の内容はわからなかった。でも、ヒロさんの気持ちはよく分かった。ヒロさんの話を聞いていると、ヒロさんと通じ合えたような気持ちになれてうれしかった。だから、ヒロさんの話を聞くのが大好きだった。毎日毎日、ヒロさんの話を聞き続けて8年目。私は、ヒロさんの言葉がわかるようになった。言葉がわかるようになってうれしかった私は、それをヒロさんに伝えたかった、でも、聞いて理解することはできても、人の言葉をしゃべることは出来なかった。だから、一生懸命鳴いたり、しぐさでヒロさんに返事をした。そんな日々がさらに5年ほど続いて、やっと会話ができるようになったころ、ヒロさんは二度と戻らない旅に出てしまった。でも、また会える。いつか、私がその旅に出るとき…ヒロさんはきっと迎えに来てくれる。ヒロさん…』

…マスター…。

『ちょっと、今日は喋りすぎたかな…』

いや、マスター、今、何歳なんですか…。

『いくつに見える?』

わかりませんよ!猫の年齢なんて!

『猫も十八、番茶も出花』

…それ、猫じゃなくて、鬼っすよ。あと、猫の18歳って結構な長老…。

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