
アイシカタ
第1章 Kiss
今日の授業は過去問を解いて答え合わせをしての繰り返しだった。
つまり、睡眠学習を取り入れる奴らが大勢いる時間だ。
もちろん俺は起きているが。
授業はじめに宿題の確認を終えた雅紀も、今ではすっかり夢の中。
休み時間の元気さはどこへ行ったのやら。
大野はそういう生徒を特別起こしたりするタイプではないし、怒りもしない。
寝てもいいが後で困るのは自分だぞ、と言っていた。
その意見には大きく賛同する。
変に生徒を起こして授業を止めるより、そっちのほうが遥かに効率がいい。
それで赤点を取った生徒は、自業自得ということだ。
大野のそのスタイルはいい。
だが一つ、コイツの授業で困っていることがある。
例えばそう、今みたいな答え合わせの時。
「じゃあここの問題を…櫻井。何て訳した?」
「もしあなたの夢が叶ったならば、その時は一緒に旅に出ましょう」
「うん、正解。じゃあついでに⑤も全部答えてくれる?」
こうしてしつこいほど俺を当ててくるのはいい加減にして欲しい。
その「ついでに」は何度目だ。
