その瞳は誰を見てるの?
第6章 その瞳は誰を見てるの? 6
~J side~
翔さんの部屋のキーは、忘れてなんかいない。
ちゃんとバッグの内ポケットに、いつものように入ってる。
だけど今日は、なんとなく自分で開けることが出来なかった。
なんとなく……
怖くて……
もし開けた時に、見知らぬ靴が脱いであったら?
もし開けた時に、よく知る誰かが居たりしたら?
そう思ったら、キーを探る手が止まってしまった。
しばらくエントランス前で、突っ立ってた。
冷静に…冷静に…翔さんを信じて……
そう言い聞かせて、エントランスに進み部屋番号を押した。
ドアを開けて待っていてくれた翔さん。
あぁ、よかった。
いつもの翔さん。
キーのこと言われたけど、ちよっと誤魔化してしまったが。
リビングに入ると、コーヒーのいい香りがする。
テーブルにはマグカップが1つ。
さりげなく片付ける翔さん。
コーヒー飲んだのかな?
このマグカップで……
「潤、お待たせ。」
翔さんと僕のペアカップにコーヒーを淹れてくれた。
僕の前に置いてくれる。
いい香りが鼻腔をくすぐる。
でも…どうしても気になってしまう、さっきのマグカップ。
翔さん、いつもこのカップを使うのに、なんで違うものが置いてあったんだろう。
「どう?」
「ん?あ…うん!すごく美味しい!僕が淹れると味が違うんだよなぁ。やっぱり翔さんのが一番!」
「そう?ならよかった!」
ちょっとはしゃぎすぎたかな。
心のモヤモヤは消えなくて、増していく一方だ。
せっかくの優しい時間なのに……
それでも、訊いておきたい。