その瞳は誰を見てるの?
第14章 その瞳は誰を見てるの? 14
~S side~
翔ちゃん……
そう呼んでくれたの、久しぶりだな。
別れ際のあのキスの感触が、まだ手にじんわり温かく残っている。
にのに揶揄されるんだとばかり思っていたのに。
なぜそんなに優しく包んでくれるように語りかけるんだよ。
こんな俺に。
にのの優しさに甘えてしまいそうだ。
なんだか周りが見えなくなっている。
元々そうだった。
どうしようもない。
仕事を終えた。
少々揉めただけに、ちょっと時間がかかったな。
予定より遅くなってしまった。
まだ潤はいるのだろう。
ちょっと顔だけ見て帰ろう。
ドラマのスタッフとすれ違う。
「あ、櫻井さん、お疲れ様です。松本さんから、あと2シーンが終わったら楽屋に戻るって、伝言頼まれました。」
「ありがとうございます。ちょっとコーヒー飲んでから行きます。」
カプチーノを頼む。
潤にも同じものを。
空きっ腹にブラックはキツイだろう。
一口飲む。
ふぅ……ようやっと少し落ち着いた。
ん、メールだ。
翔さん、終わったよ。
どこにいるの?
ちょっと片付けるのに時間がかかるから
楽屋に来て。
潤
了解。
お疲れ様。
今から行く。
翔
カプチーノを持った俺は、どんな顔をしているのだろう。