誰も見ないで
第8章 記憶
何か思い出すようなことがあったのかな
ってそんなわけないか
「ほ、本って、どんなのが好きなの?」
そして顔を上げると共に次の質問をしてきた瑞稀君に、自分の部屋の本棚を指差しながら答える
「あそこにあるようなやつかな」
「見ていい?」
「いいよ」
瑞稀君が本棚の方に寄って行って、嬉しそうに眺めている
「読みたいのあったら持って行ってもいいよ」
「ほんと? やった」
俺の言葉に本当に嬉しそうに瑞稀君が笑ってくれて、少しだけ俺の心の緊張も解けた
こうやってたくさん話して
瑞稀君が穏やかに笑っていられるなら、それでもいいのかもしれない
辛いことを思い出す方がきっと嫌だ
よね?
今は俺の心の痛みとかは考えなくていい
って心に言い聞かせて、俺はとにかく瑞稀君に楽しんでもらえるようたくさん話をした
けど
近所の本屋さんの品揃えとか
学校の屋上から見る景色の綺麗さとか
気づけば瑞稀君との思い出ばっかり話してしまって、慌てて方向修正する
「俺の幼馴染、正樹って言うんだけど、正樹はすごいイケメンで女の子からもモテモテなんだよ」
「お兄ちゃんは?」
「え、俺? 俺は……話しかけられることすらなかったかなぁ……」