誰も見ないで
第3章 好き
「購買でパンとか買いますか? それなら左手でも問題なく食べれますけど……」
確かにパンはパッケージを開けて貰えれば1番食べやすいかも
でも
でもなぁ
「紺野君が折角作ってくれたお弁当……」
俺が呟くと紺野君は小さく笑う
「家に帰って僕が食べますから勿体無くないですよ」
「違う。勿体無いとかじゃなくて、単純に……食べたいなって。菓子パンとかじゃなくて」
だって今日のは今日しか食べれないんだよ?
それが突き指で食べられないとか、絶対嫌だ
すると紺野君はさっきよりも笑う
「?」
「そんな風に言って貰えて嬉しいです。そんなに食べたいって言ってくれるなら、良い案があります」
嬉しそうな紺野君に俺も嬉しいけど
いつになく自信ありげな紺野君にちょっと不安
なんでそんなにイキイキしてるの
その理由はすぐにわかった
「はい、どうぞ」
「……」
目の前に差し出された箸
けどそれは俺が使うために差し出されたものではなく、俺に食事を与えるために紺野君が使っているもの
つまり正確には俺は箸を差し出されたのではなく
「口開けてください」
紺野君の使う箸でご飯を差し出されていた