かごのとり ~ 家出娘の家庭事情 ~
第5章 指定避難所だから・・・
『ぇ……うん。そだけど』
マリアは一瞬まばたきを速くして
画面を見ると、うなずいた。
『登録しとく』
そう言って俺は
同時にスマホの画面を操作して
マリアの番号を登録した。
『ぇ?・・・ぅ…ん、でも』
でも・・・なんだよ?
でも
〃もう会うこともないから〃
って言いたいんだろ?
そりゃそうだ。
俺だって・・・
それが一番だと思ってる。
だってよぉ・・・
『辛いなら・・・逃げてこい』
『は・・・?』
だってよぉ・・・
誰か一人くらい
お前に、逃げ場を作ったって
その…旦那とやらの
機嫌が直るまで?
せめて、一晩くらい
泣く場所や
ゆっくり眠れる場所を
作ってやったって
いいんじゃねぇか?
泣くなり
愚痴こぼすなり
せめて・・・
せめて
『寒さしのぐ場所くらい…やるからさ』
『なに・・・言ってるの?』
『俺の番号…渡しただろ?』
『う・・・ん』
『なくすなよ』
『ぁ……の』
『必要がなければ、それでいい。
それが・・・一番いい』
俺がマリアに二度と会わなければ
マリアから
俺の番号にかかってくることが
なければ
それは
夫婦仲が上手くいってるだとか
少なくとも
この間みたいに
マリアが泣いたりせずに
過ごしているって事
或いは
他の誰か
マリアを助けてくれてる人が
いるって事だ。
それが・・・一番いい。
少なくとも、俺にとっては。