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マリア

第10章 夜想曲



智side


「ただいま…。」



僕は先生の家を出てから…



じゃ、なくて、その前からずっと考えていた。





先生と、二宮くんのこと。






先生が二宮くんの存在を知ったのは、二宮くんのお母さんが亡くなった後。





しかも、二宮くんのお母さんが姿を消した理由も、


籍に入ろうとしない二宮くんが頑なに拒む本当の理由も全く知らなくて、



良かれと思って口にしてしまった言葉を今も、激しく後悔しているのだ、と話してくれた。



『人殺し』…



先生の心に、いつまでも抜けない棘のように刺さったままの二宮くんの言葉。





先生の深い後悔が、差し伸べた僕の手を、痛いぐらいに握り返す指先から伝わってきて、今もずっと僕の胸を締め付けている。





潤「誰かの心を救うことで救われたかったんだ…」






だから、心療内科医になったのだ、と教えてくれた。





潤「ごめん。ちょっと外すね?」


「あ…はい。」



泣き顔を僕に見られないように、



先生は俯いたままテーブルに手を付いて立ち上がると、そのままバスルームへと入っていった。



扉を開け、再び姿を見せてくれた時にはもう、







いつもの、あの笑顔の先生だった。


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