マリア
第30章 祝歌
じゃ、と、二宮は俺に背を向けたまま手を振り去っていった。
「何だよ…野暮はどっちだってんだよ!?」
なあ?と、墓標を見上げながらその場にしゃがみ込んだ。
「折角、積もる話がしたかった、ってのに…」
静かに立ち上る細い紫煙を見つめた。
「なあ、智…。」
最近、俺、変なんだよ?
不思議とお前の笑った顔しか思い出せないんだ。
一つのクレープをおいしいおいしい、って分け合って食べていた時の顔とか、
腕の中で気持ちよさそうに眠る頬にキスをした時、恥ずかしそうに笑った顔とか。
しかも、今まであんなに夢の中で逢いたいと思ってても出てきてくれなかったのに、
目を閉じただけで逢いに来てくれる。
お陰で、ニヤけながら転た寝している俺を見る周囲の目がイタいヤツだ、って同情してくれるほどなんだ。
あの時、俺が好きになった智は魂の入れ物に過ぎなかったのかもしれない。
いいんだ、それでも。
俺が智だ、って思ったら全部智なんだから。
って…
俺、かなりイタいヤツかも?
去り際、二宮から渡された四つ葉のクローバー。
大事にハンカチの中に挟み込んでポケットにしまい込んだ。
…お袋に、しおり、作ってもらわないとな?
…お袋、どうしてっかな?
何年ぶりかに実家に帰る口実が出来た俺の目に映る青空は、
ここ何年かで見た中で、一番綺麗な青空だった。
『マリア』 fin.