マリア
第12章 追走曲
翔side
口論の末、智を泣かせてしまったことがずっと心に引っ掛かっていた俺は、
追い返されることを覚悟の上で、智の学校の文化祭へと足を運んだ。
絵が得意だった智は、中学の時は美術部に所属していたけれど、
仕事の合間を縫って、入退院を繰り返す礼音の面倒をみていた母親を見かね、
高校ではクラブに入らずに学園祭やコンクールに作品を出展する時に限り絵筆を握った。
智は下校すると必ずといっていいほど真っ直ぐ礼音の元に向かう。
入院していれば病院へ。
自宅療養ならば自宅へと。
数日前、俺のお袋を通じて礼音が退院していたことを知った俺は智の家へと向かった。
が、智は自宅にはいなかった。
「あら、翔くん、智から聞いてないの?」
学園祭で今日は美術部の手伝いをするのだ、と言って出掛けているのだ、という。
「あっ!?そっ、そう言えばそんなこと言ってたような…」
「ウフフ。翔くんみたいな賢い子でもうっかりすることもあるのね?」
と、智の母親は、
智そっくりな顔で笑った。