マリア
第12章 追走曲
智がいるという美術室は、校舎の二階の一番突き当たりにあった。
たくさんの人で賑わう一階と比べたら、同じ校舎の中とは思えないほど閑散としていて、
ここだけ別世界のようだった。
そんな静けさの中で、
智は一人、スケッチブックに向かい鉛筆を走らせていた。
真剣な眼差しで鉛筆を走らせている横顔に、
しばし見惚れていた。
が、不意に顔を上げた智と目が合ってしまい、挙動不審に陥ってしまう。
智「翔くん?」
いきなり現れるなんて、と、不愉快極まりない顔をされるのか、と思いきや…
智「そこ、座って?」
「えっ!?あっ!?うん…!」
椅子を勧められてしまう。
智「もしかしてお母さんから聞いた?」
「うん。家に行ったらここだって。」
智「そう…」
智はまた、スケッチブックに目を落として絵を描きはじめた。
智「で?何か用?」
「へっ?あっ…と…。」
智「用があるから来たんでしょ?」
「そ、そう…なんだけど…」
どうしてなんだろう?
こうして、向かい合って、
久しぶりに会って話しているだけなのに、心臓の音がやたらと大きく聞こえた。