マリア
第1章 葬送曲
翔side
その日、午後から本格的に降り出した雨は時間を追うごとに激しさを増し、
火葬場の控え室の窓にばしゃばしゃと打ち付けていた。
軽い食事を終え、各々が湯呑みを傾けながら密やかに言葉を交わす中、
俺は、激しい雨の中、
窓の向こうに見えている、黒い傘を差し、雨の中に佇む姿を見ていた。
「ホント、可哀想に…」
「まだ、16?17?だっけ?」
「急に容態が悪化したらしい…。」
口々に故人を悼む大人たち。
「まあ…寿命だったのかもしれないね?」
ある大人の、その一言で、その話題に終止符が打たれ、
後は、近所の誰々の勤めていた会社が潰れた、
何処其処の何々ちゃんが出戻ってきた、
これからどうするんだろうか、と、
他人が話すだけムダなように思える内容の会話を始めた。
「な、翔くん?」
「え?あ…何?」
「何、じゃないだろ?勉強、できるんだって?」
「学年でトップなんだろ?」
「いや…それほどでも…」
どうやら、巡り巡って故人の話題に戻り、
そこから故人と同世代だった俺の話へと変わっていったらしい。
いきなり話をふられて、
俺は、窓の外に佇む黒い傘から目線を外した。