マリア
第2章 前奏曲
「貸して?剥いてあげる。」
僕は、母さんからリンゴとナイフを受けとる。
あっという間に皮を剥いてしまった僕を見て、礼音はため息をついた。
礼「智は何をやらせても器用なのに、どうして私はダメなのかしら?」
苦笑しながら、切り分けたリンゴを爪楊枝に突き立て礼音に手渡す。
「礼音だって練習すればこれぐらい出来るようになるよ?」
美味しそうにリンゴを頬張る礼音に笑いかけた。
礼音の病室を出てから僕は、礼音の質問の意味をずっと考えていた。
恐らく聞きたかったのは、
いつどうなるか分からない自分と健康な翔くんとのこれからのこと。
翔くんがどう思っているかは分からないけど、
礼音は本気で翔くんのことが好きだ。
だから、大好きな翔くんとは触れ合いたいけど、
自分の病気に悪い影響があるかもしれないから、どうしたらいいのか分からない、ってことなんだろう。
僕は、自販機から炭酸ジュースを買うと、
中庭を見渡せる病院内のベンチに腰を下ろした。
プルタブに指先を引っ掛けた時、
目の前を、若くて背の高い白衣を来たドクターが、颯爽と横切っていった。
もしかしたら、そういうことはお医者さんに聞いたら分かるんじゃないか、って、
僕は、思わずその先生を呼び止めてしまった。