マリア
第15章 悲愁曲
「い…って。」
頬につけられた赤い二本の筋に触れた指先にベットリと絡み付く赤い液体。
部屋の隅に目をやると、
白いシャツだけを纏い、
白くて細い素足をさらす大野くんが力なく横たわっていた。
その、細い体からは時折しゃくりあげるような声が聞こえ、
さらに膝を小さく折り畳むようにして抱え込んだ。
智「……っく……ひっく…」
泣き叫ぶ大野くんを力任せに押さえつけ、
無理やり犯した。
智「うっ…ぐすっ…」
「………」
大野くんの咽び泣く声に、
俺の胸に芽生えたほんの小さな罪悪感は、
時間を追う毎に大きくなっていった。
「あ…あの…」
俺が声を発した途端、
大野くんの声が一瞬途絶えた。
「なん…つったらいいのか…」
ヤるつもりで言葉巧みに誘い、連れ込んで、
結局、無理やりヤってしまったけど…でも……
「ごめん…」
うまい言葉なんて出るはずもなくて…。
ゆるりと体を起こすと、
大野くんは、あちこちに散らばった自分の服をかき集めてのそのそと着込んだ。
そして、あの、大きなスケッチブックを抱えると、
フラフラした足取りで部屋を出ていってしまった。