テキストサイズ

マリア

第16章 迷走曲



和「俺が感情に任せてあんなこと言ったりしなければ…」



それを言うなら俺だって…



俺だって同罪だ。



雅紀の心の傷が、



そのまま智の体の傷になってしまった。



誰が悪い、自分が悪い、ってここで慰めあってた、って、





二人の傷が癒えることなんてないんだから。





ごめん…智、巻き込んでしまって。



まさか、雅紀の怒りの矛先が智に向けられるなんて、思ってなかったから。





智……



痛々しい後の残る智の手を握りしめていると、



智の瞼がピクピクと動き、ゆっくりと開いた。





智「ここ…は…?」



二度三度瞬きをしたのち、智はキョロキョロと辺りを見回した。



和「俺んちですよ、大野さん。」


智「え?でも、ここ…先生の部屋じゃ…」


和「同じマンションの上の階に住んでるんです。」

智「そう…なの?」


和「今日は疲れたでしょ?もうちょっと横になってたら?」



と、二宮は智のシーツの位置を直した。



和「もうすぐアナタの大切な人に会えますからね?」


智「大切な…人?」


和「俺の兄貴です。」


智「先生が…?」


「はい。もうそろそろ着くはずです。」



笑いかける二宮に、智の顔が急激に曇る。



和「どうしました?」



智は覗きこむ二宮から顔を逸らすみたいに背を向けた。



智「ごめん。会いたく……ない。」



ストーリーメニュー

TOPTOPへ