マリア
第17章 序曲 ①
「さみぃ…」
鍋で中途半端に温まった体を、振りだした雪が急速に冷やしてゆく。
コートのフードを被っていても体が冷えてゆくスピードは止めることができず、
でも、
このまま何処に行ったらいいのかも分からなくて、とぼとぼ歩いていると、
通りがかった公園で一基のブランコが目に留まった。
ブランコ…か。
そう言えば智のやつ、
昔、ブランコに乗ることが大好きで、よく俺が後ろから押してやってたっけ?
俺は高いところが苦手だったから、もっぱら智のブランコを押す役を買って出ていた。
智はもっと高く、もっと遠くと俺を煽った。
その結果、勢い余ってブランコから落ちた智は、奇跡的に額を数針縫うケガだけですんだものの、
額から血をだらだら流しながらワアワア泣く智をおぶって家まで送っていった。
互いの両親にこっぴどく叱られた俺らは、もう、
ブランコに乗ることはなかった。
ブランコにうっすら積もった雪を払い腰かける。
ゆっくりと揺らし、徐々にスピードをつけて漕いでゆく。
智『翔くん、もっと、もっと高く、だよ!?』
…これ以上はムリだよ智。
俺、高いところ苦手だもん。
闇の中からちらちら舞い落ちる雪を見上げながら俺は、
ゆらゆら、ゆらゆらと揺れ続けた。