マリア
第17章 序曲 ①
潤「へぇ…鍋か…」
コートを脱ぎながら松本先生が俺らのところにやって来て鍋の中を覗き込む。
智「魚、僕が捌いたの。」
アイツの側で微笑む智。
潤「スゴいね?」
そんな智を笑顔で見つめ返す松本先生。
見るに耐えられなくて箸を置いた。
和「櫻井さん、大丈夫?」
俺の異変に気づいた二宮が声をかけてきた。
「あ…うん。」
…美味しくない。
何を口にいれても味がしない。
「ごめん。俺、用事思い出したし帰るわ。」
智「えっ?もう?」
「ほんと、ごめん。」
潤「せっかくゆっくり話がしたかったんだが…。」
と、松本先生は心底ガッカリしたような顔をした。
「すいません。また、誘ってください。」
そそくさと松本先生に頭を下げ、コートを手に立ち上がる。
智「ね、翔くん、ホントにゆっくりしていけないの?」
振り向くと、泣きそうな顔の智が立っていた。
「ごめん…」
智「そう…」
スニーカーを履き、振り向き様にもう一度智を見た。
智「またね?翔くん?」
「じゃ。」
『またね?』…
智、君は本当にそれを望んでいるの?
また、俺と会うことを。
もしそうなら嬉しい。
閉じられたドアの向こうで、小さく手を振り見送る君のことを、
…信じたい。