マリア
第18章 虚偽曲 ①
「ごめん、やっぱり俺、無理…」
尚もすがり付く智を俺の体から完全に引き剥がし、今にも泣きそうになってるその顔を見つめた。
「だってそうだろ?俺が二宮とあんな関係になったから智くんがあんな目に合ったワケだし。」
智「……そうだね?」
智のことを思って、みたいな言葉を並べつつ実は、
俺は自分を守るのに必死だった。
「フリ、とかじゃなくて付き合う、ってんなら話は違うと思うけど?」
突然、智の顔から表情が消える。
……だろうな?
智の反応に自嘲気味な笑みが浮かんだ。
「そういうことだから。俺のことが必要になったら連絡してよ?」
今度こそ帰ろう、と、一歩二歩踏み出す。
背後にいる智の気配は感じるものの、動き出す気配はない。
小さくため息をつきながらドアノブに手をかけた。
智「……いいよ?」
「は?」
智「翔くんが今、誰ともと付き合ってないんなら、ね?」
振り返ると、少し俯いたままの智の背中があって、
「そんなん、いるわけ…」
智「あれ?じゃあ、二宮くんとは付き合ってなかったの?付き合ってたからセックスしてたんじゃないの?」
そして、気配で分かったのか、智も顔を上げこちらを見た。
智「……違うの?」
「だからそれは…。」
まただ…。
薄暗がりの中で笑ってるみたいな顔……。
智「じゃあしょうがないね?この間のことは水に流してあげるから、って言って、相葉くんにお願いしようかな?」
智の口をついて出た名前に言葉を失う。
智「よくよく考えたら相葉くんも可哀想なんだよね?翔くんに二宮くんを盗られちゃったから。だから……」
言ってることがブッ飛びすぎてて、頭が着いていかない。
「正気?雅紀が智くんに何したか分かってんの?」
智「……知ってるよ?相葉くんは翔くんと同じことしたんだ。」
その薄ぼんやりとした闇を纏ったまま、小首を傾げた智が微笑む。
智「翔くんが礼音を抱けない代わりに僕を抱こうとしたみたいに、偶々側にいた僕を抱いたんだよ?」