マリア
第20章 奸計曲
「いててっ!!な、何すんだよ!?」
智「翔くんのバカ!知らない!!」
「バ…」
俺の高所恐怖症を知りながら、こんな高いところにまで無理矢理付き合わせた挙げ句、
逆ギレですか?
しばし、沈黙が続いたあと、
智がぽつり呟く。
智「…せっかく翔くんと二人っきりになれる、って思ったのに…。」
え…?
窓ガラスに映る智の泣きそうな顔。
そんな可愛いらしいことを考えてくれてたんだ、と思うと、
こちらに背を向けている智の体を堪らず抱きしめていた。
「ごめん…」
小さく鼻を啜ると、智はぶんぶんと首を振った。
智「僕こそごめんね?翔くんが高いところ苦手だ、って知ってて無理言って?」
…だと思った。
振り向きざまに重ねられた唇は、
冷たく、柔らかな感触だけを残して離れていった。
今度は、俺の方から重ねた。
冷たい唇を暖めるために。
智「んっ…しょ…」
そして今度は、
温めた唇の温もりを共有するように。
智「ふっ……うっん……」
今度は、燻り始めた気持ちを高めていくために。
いつしか、俺は、
この観覧車が地上に辿り着かないように、
この場所に、俺と智を半永久的に留め置いてくれたら、と、
思い始めていた。