マリア
第4章 輪舞曲
松本side
病室を出、綺麗に磨きあげられた床に映る自分の顔をしばらく見つめていた。
「俺に出来ることがあったら何でも言って欲しいんだ。」
小さな肩を両手でしっかり抱きしめながら、熱弁をふるう自分を見つめる虚ろな瞳。
やがて、その唇が開いたか、と思ったら、
切っ先に毒をこれでもか、と塗り込めたような言葉を吐いた。
和「じゃあ…返して。」
「え…?」
和「母さんを返して。」
「いや…君のお母さんはもう…」
和「何でも、って言ってたじゃない?」
「し、しかし…」
和「…人殺し。」
乱暴に振り払われる腕。
和「アンタたちが寄って集って母さんを殺したんだ!!」
「和也くん…?」
和「…気安く呼ぶな。」
見上げた和也の目に映る自分の顔。
和「二度と俺の前に現れんな!!」
『君と似た子を知ってるんでね?』
『君に似た子』…
それは、
紛れもなく今、ここにいる俺のことだった。
和也とは、俺の父親がお袋が亡くなる少し前から交際していた女性との間に生まれた子供で、
和也の母親が亡くなるまで俺は和也の存在は愚か、父親の愛人の存在さえ知らなかった。
俺が彼らの存在を知ったのは、
奇しくも、和也の母親が亡くなった後のことだった。