マリア
第22章 遁走曲
翔side
築何十年か分からないぐらいのボロアパートの一室に入ったきり松本先生が中々出てこないことに不安を覚えた俺は、
たまらず、その部屋をノックしていた。
雅「だ、誰?」
翔「ま、雅紀?俺…翔だけど?」
和「さ、櫻井さん!!」
「あっ!!カ、カズ待っ…」
和「櫻井さん、助けて!兄貴が…兄貴が…!」
雅紀の、焦ったような声のあと、
二宮の切羽詰まった声がして、開け放たれた襖の奥を覗くと、
松本先生が蹲っていた。
和「櫻井さん、早く…早く救急車呼んで!?」
「き、救急車、って…?」
部屋に上がり、蹲ったまま動かない松本先生にさらに近づいて、よくよく見てみると、
黒っぽい服が、湿った光を放つ箇所があって、
床が赤く染まっていた。
「に、二宮、これ…?」
和「お願い!早くっ!!」
漸く状況を把握できた俺は、テンパりながらも救急車を呼んだ。
そのどさくさに部屋を出ていった雅紀は、
放心したように、公園のベンチに座っているところを警察に保護されていた。