マリア
第22章 遁走曲
潤「ずっと見てたから…」
照れたように笑う。
「何だよ…起きてたのかよ?」
慌てて手を引っ込める。
潤「もう…体は大丈夫なの?」
「だからここにいるんじゃん?」
潤「それもそうだ…」
不意に伏せられた瞼を縁取る睫毛が作る影のせいで、
不謹慎だったけど、
ただでさえ濃いめの顔立ちが濃く見えて少し笑えた。
「あの…何て言ったらいいか…」
潤「何が?」
「もう、歩けない、って…」
潤「ああ…」
何だ、そんなことか、と、言わんばかりに鼻で笑う。
潤「こうして生きてるんだ。それでいいじゃないか?」
「でも…俺のせいで…俺なんかのせいで…」
泣くつもりなんてなかったのに、
涙がぼろぼろと零れ落ちてきて止まらない。
潤「気にしなくていいから…」
俺より一回り大きな手。
その手が俺の手にそっと重ねられる。
「だっ…て…もう、歩けないんだよ!!自分の足で!」
なのに何で笑ってられるんだよ?
潤「…そうだな。」
一計を案じるように逸らされた目。
潤「じゃあ…一つだけ…和也、君が…」
そっと重ねられた筈の手が力強く俺の手を握ってくる。
潤「君が僕の足になってくれないか?」