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マリア

第1章 葬送曲



翔side


智「あっちぃ…」



猫舌な智は、


一口飲んだだけで湯呑みから唇を離し、顔をしかめた。



智「…何?」


「え?」


智「ボーッとしてるから…」


「昨日、遅くまで勉強してたからかな?」



綺麗な指に見惚れてました、なんて言えなくて、



俺は咄嗟に嘘をついた。


智「逝っちゃったね、礼音?」



どこか定まらない視線のまま、



智はお茶をずずっと啜った。



礼音とは、



智の双子の妹で、



今日がその礼音の葬儀だった。



礼音は心臓が悪くて、医者からは長くは生きられない、と言われていた。



それが、17年。



彼らの両親はその早すぎる死を、



「17年しか生きられなかった」



ではなく、



「17年も生きた」と気持ちを切り替え、



式では気丈に振る舞っていた。



だが、その両親、特に、お母さんの方は、箍が外れたように、



荼毘に付されようとする礼音の柩にすがって惨いことをしないで、と、泣き叫んだ。



取り乱すお母さんを、やっとの思いで智とお父さんとで柩から引き剥がし、




その柩が収められた火葬装置の扉が閉められると、



智のお母さんは智にしがみつき、ワアワア泣いた。



もう、2度と、



もとの礼音の姿で会うことが出来ないのだ、と言って。


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