マリア
第28章 慟哭曲
幸い、家にはみんな出払っていて誰もいない。
お袋も、今日は夕方までパートで帰ってこない。
チャンスだ。
チャンス…なんだけど、俺…
…高所恐怖症なんだよな?
お袋のやつ、それを見越して俺を部屋に閉じ込めたのか。
でも、手をこまねいている余裕はない。
さらに激しくなった雪の中窓を開け、くそ重たいカバンを窓から放り投げ、下を覗き込んだ。
うっ……やっぱ高いな…(←部屋は二階。)
でも、カバン外に出しちゃったし、
降りるしかないだろ!!
と、机に上がり窓枠に足をかけた。
で、やっとの思いで一歩踏み出したところへ、下から声が。
「なっ…何やってんの?お兄ちゃん?」
げ…ユキ。
「あっ…いや…これは…」
「ちょっと待ってて!!」
「え…?」
このままの状態で?
窓枠に、後ろ向きで掴まったままで、しかも、一歩を踏み出してる状態でか?
ユキが走って家の中に入っていってしばらく、
俺の部屋の前で、何やら重いものを引き摺っているような音が聞こえてきて、
やがて、部屋のドアが開く音とともにユキが顔を覗かせた。
「お兄ちゃん、こっち!!」