マリア
第28章 慟哭曲
「雪が降ってんのに裸足で外に出るつもり?霜焼けになっちゃうよ?」
と、下駄箱からブーツを出してくれた。
「サンキュ…」
「行くんでしょ?あの赤いマフラーの人のとこに?」
「えっ?あ…う…うん。」
な…なんで?
「応援してるから…。」
「…うん。」
玄関のドアの前で立ち尽くしている俺を見かね、
ユキは、ほら、早く、と背中を押した。
「ほーら!?早く行かないとお母さんが帰ってきちゃう。」
「う…ん。」
ユキ…ごめん。
ごめん…お袋。
俺のことを心配してのことだ、ってのは分かってる。
分かってる、けど、
今の俺は…今の俺にとって一番大事なことは、
智の側にいてやることなんだ。
時間を追うごとに雪は激しさを増し、
すれ違う人すれ違う人がコートの襟を立て、足下を気にしながら歩いてゆく。
やばいな…急がないと。
さっきまで、薄く雪化粧を施していた景色が、
いつの間にか純白の綿帽子を纏っていた。
足下を気にかけながらやっとの思いで駅に辿り着く。
構内は朝のラッシュの時とまではいかないが、
不安そうに電光掲示板を見つめる人たちで溢れかえっていた。