マリア
第28章 慟哭曲
「…待て…よ、礼音。」
智を連れていく、って?
何言ってんだよ、智ならここにいるじゃないか?
俺の腕の中で眠ってるじゃないか?
「な?そうだろ?智?」
智の顔を両手で持ち上げ語りかけるも、もう、
返事はおろか、眉一つ動かない。
「智…」
すっかり冷たくなった頬を軽く叩く。
「智、いつまで寝てんだ、って?」
体を揺すると、智の体は力なくガクガクと揺れた。
「な…智、こんなとこで寝たら風邪引く、って!?」
サイレンの音が段々近づいてきて、
俺たちのすぐ側で消えた。
「なあ、ウソだろ?俺をからかって遊んでんだろ?」
『智は私が連れていくから…』
「なあ、智っ……!」
『生まれ変わるの、私たち。』
「…イヤだ」
『早くしないと間に合わないから…』
「連れてかないで…」
「えっ?」
「お願いだから…」
数人の救急隊員がいつの間にか、俺たちのそばに来ていて、
腕の中の智に手を伸ばしかけ、俺の譫言に驚いて手を引っ込めた。
「お願い…」
お願いだから…
俺から智を奪っていかないで…。